警報システムに「警報」
チリ大地震 津波情報誤伝達
Jアラート 混乱招いただけ◆無駄の見本
導入3年 配備の自治体2割未満
東京新聞 2010年3月4日
チリ大地震による津波騒動で、各地で誤作動などによるトラブルが発生した「Jアラート」。武力攻撃や大規模災害時の全国瞬時警報システムのことで、導入から3年がたつが、配備する自治体は2割未満。当初から誤作動続きで、津波でまたボロが出た形だ。国は、100億円を超える補正予算を組み、全自治体での配備を目指すが、一体役に立つのか。(出田阿生)
Jアラートの仕組みはこうだ。まず、地震などの自然災害情報については気象庁が、ミサイル発射などの有事情報は内閣官房が、総務省消防庁へ緊急情報を出す。すると同庁が通信衛星を使って瞬時に自治体の受信機に情報を伝達。自治体の防災行政無線を自動的に起動させ、サイレンや音声で住民に伝える。
「国から緊急情報を伝える際、自治体職員を介するとどんなに急いでも数分はかかる。Jアラートなら、わずか数秒ですむ。しかも24時間対応できる」(消防庁)
一見、便利なこのシステム。ところが津波騒動では、各地でトラブルが相次いだ。注意報解除となった神奈川県茅ケ崎市では、誤作動で再び注意報が流れ、市が直後に「解除です」と訂正放送。同横須賀市では、警報が2度も流れ、驚いた市民から苦情がきた。同三浦市も同じく、すでに閉鎖された避難所に住民が逃げてくる騒ぎとなった。
Jアラートは速報性を売りにするが、今回、津波警報や注意報は事前にテレビなどで大々的に流れていた。ある自治体の担当者は「Jアラートは、いらぬ混乱を招いただけだった。災害情報なら、気象庁の情報を自治体が判断して防災無線で流せば十分。その方がかえって間違いが少ない」と苦笑する。
そもそもJアラートは、国民保護法に基づいて2007年から運用が開始された。防災よりも、武力攻撃などへの迅速な対応が主目的だったはずだ。しかしここでも08年、岐阜県大野町と福井県美浜町で誤作動が発生。原発がある美浜町では、防災無線で「ミサイル着弾の恐れあり」と放送が流れ、町民から問い合わせが殺到したという。
その後、「システムを改善」(消防庁)したというが、昨年4月の北朝鮮ミサイル発射時には使用を見送った。放送音声は固定文で、「着弾の恐れ」のみ。上空を通過する場合の音声は用意されていなかったためだ。
軍事評論家の神浦元彰さんは「Jアラートは防災だけでなく、有事対応にもまったく役立たない。無駄の見本みたいなもの」と断言する。
神浦さんによると、北朝鮮が弾道ミサイルのノドンを発射したとして、日本に着弾するまでの時間は15〜20分。「発射を確認し、さらに着弾場所を予測できるのはその後になる。残りわずか十分間ぐらいで放送を流し、屋内への避難を呼び掛けて何の役に立つのか」と神浦さん。
自治体の財政難もあってJアラートの普及は進んでおらず、約1800の市区町村のうち、配備は282(今年3月現在)。普及率は15.8%にすぎない。国は本年度、計120億円の補正予算を投入。自治体の配備費用を、国が交付金で全額負担することにして、10年度中に全自治体に普及させることを目指す。
前出の神浦さんは言う。「結局、北の脅威を利用した予算獲得にすぎない。これで『国民の不安を取り除く』というのなら『イワシの頭も信心から』と一緒だ。得をするのは国防族の政治家や天下りの役人、自衛隊や関連業者だけ。本来なら事業仕分けで真っ先に削減すべきでしょう」。
home