BGM流れぬ豊かさ
ピアノ教師 西田恵理(大分市 45)

朝日新聞 2009年12月24日


大分の臼杵市は静かな城下町である。昭和のにおいの残るところや、明治・大正時代の建物がたくさん残っている。

そんな風情のある町で、私は石川啄木や与謝野晶子の自筆書簡を展示してある小さな喫茶店に入った。百年の歴史を持つ建物は柱などが飴色になり、窓の位置も低く、座ると道行く人が見える。壁には啄木の恋文などが展示してあって、読みながらコーヒーを飲むと時が止まったようだ。

なぜここが心地よいか考えてみた。そしてBGMがないからだ、と確信した。今、日本中の駅や店や、自然を楽しむはずの山でさえもBGMが流れている時がある。が、音の洪水の中にいると肝心なものが聞けない。人の話であったり、電車の近づく音であったり、鳥や風の音だったり。

啄木喫茶のコーヒー豆をひく音やお湯の沸く音は、一期一会の客人をもてなすのにふさわしいと思った。


home