特報部

南伊豆 体調不良の声 星降る町に風車の音

東京新聞 2009年12月16日(朝刊)


クリーンなイメージが強い風力発電への″風向き〃が変わり始めた。巨大風車が出す低周波音が原因とみられる健康被害が問題となり、環境省が全国的な調査に乗り出す。法的に環境影響評価(アセスメント) の対象とする動きや、補助金削減の可能性も。実態はどうか。風車の試運転が始まった静岡県南伊豆町で住民の声を聞いた。 (大野孝志)

ジュワッ、ジュワツという表現が適当だろうか。正面の山の尾根に直径80メートルの風車を見上げる、村尾真弓さん(51)宅。満天の星が降るような夜、風切り音やモーター音が特に大きく降り注ぐ。

伊豆半島の先端近く、巨大風車が尾根伝いに17基並ぶ。電源開発(電発)などが出資する石廊崎風力発電所が姿を現し、来年3月の稼働を目指して試運転中だ。

「耳の奥が痛い」「くらくらする」

村尾さんが体の異変を感じたのは、正面の風車が回り始めて2日目だった。耳に聞こえる騒音や、間こえない低周波音が原因としか思えないという。低周波音に敏感とされる金魚の観察日記にするつもりだったノートに、自分の症状ばかり書き込んでいる。「圧迫感」「耳の奥が痛い」「くらくらしてきた」などの言葉が並ぶ。 「最初は気にしすぎかと思った。でも、頭を揺さぶられる感覚もある。風車の向きや回転数、家の中の場所によって症状のひどさが違う。少し前は外出すればすぐに良くなったが、今は回復まで1時間ほどかかる。もう、ここには住めないのかも…」と村尾さん。9月14日、10月8日付の「こちら特報部」で取り上げたように、同じような健康被害の声は、静岡県東伊豆町や愛知県豊橋市など各地から聞こえる。

全国1500基すべて環境省が調査へ

環境省は来年4月から全国約1500基すべてについて、周囲の住民の健康状態や地形、騒音・低周波音の状況などを調べ、健康被害との関連を研究する方針だ。

また、国の中央環境審議会の専門委員会は11月の中間報告で、風力発電施設を「環境アセス法の対象事業に検討すべきだ」とした。現状では一部の自治体の条例と補助金審査でだけアセスが求められているが、法改正の可能性が出てきた。

その補助金をめぐる動きも。行政刷新会議の事業仕分けで、大出力の風力発電や太陽光発電など、新エネルギー施設ヘの補助事業(2010年度概算要求で約320億円)が、半額程度への「予算要求の縮減」に。「事業者が自らの責任で行うべきものや大企業とその子会社が多く含まれている」との意見もあった。

同じ伊豆半島の東伊豆町の住民は、公害等調整委員会に健康被害の原因裁定を求めており、調査が始まった。だが、裁定までは1年半以上かかる見込みだ。

夫手作りの自宅転居は悔しい…

前述の村尾さんは、本工職人の夫(62)と今の家に移って10年。夫の作業場を併設する本造の自宅は、夫が八年かけて少しずつ造った。「転居を余儀なくされるのは悔しい。だけど、具合が悪い日は毎日続く」と、やりきれない。

電発は取材に「風車に起因した騒音や低周波音の被害が確認され、対策が必要と認められる場合には、適切に対応する」としている。


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