高周波音で街快適
深夜の公園騒ぐ若者撃退 「疑似熱帯雨林」憩い演出

朝日新聞 2009年7月15日(夕刊)


周波数に着目した音の使われ方が、広がりをみせている。若者を「撃退」する目的で公園に流したり、携帯電話の着信音にしたり。中には、「聞こえない音」を生かして快適さを演出する試みもある。(三島あずさ)

若者による騒音や物損被害が深刻な東京都足立区の北鹿浜公園では、5月21日から深夜に、若者だけに聞こえる耳鳴りのような高周波の音「モスキート音」を発生させている「使われているのは、18キロヘルツ前後の高周波を発信する装置だ。 音は空気の振動で伝わる。1秒間に何回、音の波が上下するのかを表すのが、周波数(ヘルツ)。高周波は高い音、低周波は低い音になる。人に聞こえる音は20ヘルツ〜20キロヘルツと言われるが、モスキート音ほどの高周波は20歳ごろをすぎると聞こえにくくなるとされる。区公園管理課によると、システム導入以降、幅広い年齢層の人たちが「耳試し」に来ているという。こうした「大人たち」がいる時間帯は若者も集まりにくいようで、増田治行課長は「思わぬ『パトロール』効果です」と話す。

モスキート音は、携帯電話の着信音としても使われている。タイトー(東京)は07年から、有料会員向けにモスキート音の着信音を配信。「耳年齢」を知るための遊び心からで、音は10代向け(17キロヘルツ)から60代向け(11キロ ヘルツ)まで6段階ある。

足立区の実験が話題になってから約1カ月で、通常の3〜5倍ほどの会員登録があったという。注意書きには「授業中にこっそり先生に聴こえるか試さないようにね」。

街づくりのツールとして、周波数に着目した音を活用している例もある。

滋賀県彦根市の「四番町スクエア」は、レトロな街並みの新しい商業ゾーンとして05年秋にまち開きした。150キロヘルツの高周波も再生できる特殊なスピーカーを約50個設置。熱帯雨林で録音した鳥のさえずりや虫の羽音などに、超高周波を含む音が出せるアナログシンセサイザーを加え、流している。

事業に参加した放送大学教授、仁科エミさん(48)は「人類誕生の場所とされる熱帯雨林には、市街地にはない100キロヘルツを大きく超える高周波の音が満ちている。人類に適した音で都市環境の快適化を目指した」と話す。スクエア内にある商店の女性店員(57)は「脳にやさしいと言われると、なんだかそんな気もしますね」。

国際科学振興財団の主席研究員、大橋力さん(76)は実験で、熱帯雨林の音を聞くと脳の基幹部の血流量が上がること、脳のリラックス状態を示すα(アルファ)波が多く出ること、「キレる」時に出るアドレナリンの分泌低下などを確かめた。耳で聞き取れない部分は、体全体で感じているらしい。

心地よさをもたらすとされる高周波なのに、なぜ18キロヘルツの「モスキート音」だと不快なのか。大橋さんによると「18キロヘルツが悪いのではなく、単一周波だけを不自然な量で聞かされるのが不快なのです」。食事と同様、多くの成分をバランス良く含んだ音が心地よいのだという。

では深夜の公園に集まる若者に、モスキート音ではなく高周波をバランス良く含んだ音を聞かせたらどうか。大橋さんは「破壊行為はしなくなる可能性が高い。音が果たせる役割はたくさんあるはず」と話す。


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