北海道新聞 2015年6月26日(朝刊)
視覚障害者を誘導するために公共施設や駅で流す音「盲導鈴(れい)」が、住民の苦情により、音量を絞るなど対応を迫られるケースが各地で相次いでいる。北海道札幌視覚支援学校は今春の開校からほどなく、「ピンポーン」という機械音を鳥の鳴き声に変えた。歩行などに支障は出ていないが、聞き取りづらいという指摘もある。障害者団体は「視覚障害者にとって音は命綱。障害へ理解を深めて」と訴えている。
札幌視覚支援学校(石川大校長、札幌市中央区南14西12)は、札幌盲学校(江別)と北海道高等盲学校(札幌)を統合し、今年4月に開校した。3歳児から成人まで91人が通う。盲導鈴は前身の2校でも使われ、統合後は校舎玄関と、校舎に隣接する寄宿舎玄関など計3カ所に設置された。
開校当初、校舎側の盲導鈴は朝から夕方、寄宿舎側は生徒が外出する夕方から午後9時まで、機械音を流していた。音量は道路を挟んだ住宅まで聞こえる程度だったという。
やがて住民から「頭が痛い」「子供が寝付けない」などの苦情があり、同校は5月初旬、校舎側の盲導鈴を朝だけ鳴らすことにし、寄宿舎側を鳥の鳴き声に変更した。また3カ所のうち2カ所の音量を、付近の住宅まで聞こえないよう1段階小さくした。
視覚障害者によると、鳥の鳴き声は機械音に比べ、聞き取りづらいという。同校周辺は点字ブロックが整備され、現状で児童らの通学に支障はないが、冬は積雪で点字ブロックが隠れ、道に迷うなど影響が出る可能性もある。片平明彦教頭は「住民も学校も共存できるような盲導鈴の使い方を探っていきたい」と話す。
苫小牧市の市心身障害者福祉センターは、視覚障害者が施設を利用している間、玄関の盲導鈴を常に鳴らしていた。しかし住民の苦情を受け、2年前から出入りする時間だけ鳴らすようにした。
JR北海道は道内の有人駅111カ所の改札口などに盲導鈴を設置している。「音が大きい」など住民の苦情を受け、 一部の駅では早朝や深夜に音量を小さくしている。広報担当者は「視覚障害者の利用が少ない駅での措置で、支障は出ていない」と説明する。
道によると、道内の盲導鈴の設置数は不明。札幌市は条例で、公共的な施設に盲導鈴を設置するよう定めているが強制ではなく、「音量や使用法は施設が判断する」という。
札幌市視覚障害者福祉協会の近藤久江会長は「盲導鈴の設置はまだ少なく、盲導犬や同行者がいない全盲の人は入り口が分からず迷うこともある」とし、「最近は園児の声や花火の音まで騒音扱いされ、音に厳しい世情を感じる。体調などで音を苦痛に感じる気持ちも分かるが、障害者への思いやりも忘れないでほしい」と話している。