効果聞こえぬ高周波
足立でルポ

東京新聞 2009年6月5日(夕刊)


若者だけに聞こえる不快な音を出す「高周波音発生装置」を、東京都足立区が区立公園で試験的に導入して二週間が過ぎた。深夜にたむろして迷惑行為を繰り返す中高生らを遠ざけようとの狙いで、公共施設では全国初の試み。区には「人権上、問題」といった反対意見など賛否の声が多数寄せられ、広く関心を集めている。今月一日、その公園の夜をウオッチした。(岡村淳司)

17歳少年「音だけ・・・味ない」

20代女性「分からずショック」

住宅街にある区立北鹿浜公園。これまで若者が騒いだり、管理棟の窓ガラスやトイレを壊されたりする被害があり、苦肉の策として先月二十一日に装置が設置された。すぐ壊される心配もあったが、十日ぶりに目にした装置は無事だった。 午後十一時、装置が始動し、シャカシャカという音が響いた。若者には、さらに「キーン」という不快な音が聞こえるらしいが、三十三歳の記者には何も間こえなかった。 興味深げに装置を見ている男女がいた。二人とも二十四歳で近くに住み、どんな音がするのか聞きに来たという。女性は「絶対聞こえる自信があったのに …ショック」と残念そう。男性は「耳鳴りみたいな音がするけど、この辺の子はへこたれないだろうな」。

午前零時半、自転車の男子高校生二人が現れた。体育祭のダンス練習で遅くなったついでに来たといい、「間こえるけど、不快感はゼロ」と笑った。午前一時二十分には、区外から車で一時間かけて来たという中年夫婦が「聞こえなくてがっかり」と話し、あわただしく立ち去った。

装置のことがマスコミで取り上げられたせいか、見物に来る人が多い。そんな人目を嫌ってか、たむろする若者の姿はなかった。

標的とされる若者たちの感想はどうか。別の日、近くの遊技場で声を拾った。暴走族のメンバーという解体工の少年(一七)は「あそこはバイクで集まりやすい。警察官が五十人くらいいるならともかく、音だけじゃ意味ないんじゃない」。男子高校生は「何とも思わない。勝手にやってれば」と冷ややか。

区には四日までに百十五件の意見が寄せられた。内訳は賛成五十八件、反対四十三件、その他十四件。反対意見は「若者だけなぜ排除するのか」「非人道的だ」など。 近藤弥生区長は「庁内でも長い議論があつた。子どもを排除する短絡的な意図はない」とし、「地域ぐるみで居場所をつくるよう考えていきたい」と強調する。 装置はあくまで対症療法。若者たちが他の場所へ流れるだけでは根本的な解決にならない。それでも公園行政に一石を投じたのは確かだ。

高周波音発生装置 10代から20代前半ならば聞き取れる17.6キロヘルツの高周波音で、数十メートルの範囲に蚊が飛ぶような音(モスキート音)を発生させる。英国生まれ。今回の試験(来年3月まで) では、代理店が区に無償貸与している。


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