平壌ウオッチ
有線放送
停電なく終日洗脳
東京新聞 2012年2月29日(朝刊)
最近訪日して友人たちと話をした際、日本では北朝鮮の女性アナウンサーのまねがギャグになっていることが話題になった。
北朝鮮の放送はすべて、故金日成主席と朝鮮労働党のための思想的武器と位置付けられ、党宣伝扇動部が管理、監督、指示している。
テレビは朝鮮中央テレビ、万寿台テレビ、平壌文化教育テレビ、開城テレビがある。
このうち一般住民が視聴できるのは朝鮮中央テレビだけだ。万寿台テレビは週末限定で平壌地域だけ視聴可能。残る二局は対韓国放送で、システムが違うので北朝鮮のテレビでは映らない。
北朝鮮放送委員会出身者などによると、万寿台テレビは万寿台芸術劇場をつくる時に併設された。
最先端放送機器をそろえ、内装もぜいを尽くしており、落成式の際に金主席が「このような物をまたつくったら、(資金不足で)国が滅ぶ」と金正日総書記をしかりつけたという。
もともと同局は金氏親子専用ケーブルテレビとして企画された。各国ニュースやドラマなどを受信し、すばやく声優が吹き替えて金氏親子の邸宅や事務室に送信するはずだったが、金主席が激怒したため一般向けに週末、ニュースや映画などを流すことになった。
停電の多い北朝鮮でも放送が止まらないのが、非常発電システムを備えた「三放送」と呼ばれる有線放送だ。第一放送のラジオ、第二放送のテレビに次ぐ放送との意味。すべての住宅や事務室の壁にスピーカーが掛かり、二十四時間、ニュースや金親子を偶像化する歌、ドラマなどを流す。
スピーカーにはオンオフのスイツチがない。音量を最小にしてもかなり大きな音だから、家にいると、いつの間にか歌を口ずさむようになる。
五十五歳未満の社会人は「労農赤衛隊」という民間軍事組織で、毎年十五日間の合宿訓練を受けなければならない。
訓練所も停電が続く。ある時、暗闇の中で三放送が朝鮮戦争をテーマにしたドラマを流していた。真っ暗でやることがない訓練生は、ただじっと放送を聴いていた。やがて朝鮮人民軍が韓国軍との戦いに勝利し、ソウルを占領するくだりになると、皆がドラマの声優のせりふに合わせて、 一斉に「金日成将軍、万歳」と叫んだ。涙ぐむ者さえいた。
私も一緒に万歳を叫びながら、洗脳の恐怖を覚えた。
(元朝鮮労働党幹部・呉小元)
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