紙つぶて
アナウンス

東京新聞 2012年2月18日(夕刊)


名古屋からの仕事帰りに新幹線で眠っていた。すると、男性の声で車内アナウンスが流れた。「間もなく富士山です。普段のこの時期なら見えるはずですが、今日は雲が厚いため全景が見えません。次回ご旅行の際はぜひご覧ください」。慌てて窓から探してみたが、やはり富士山の姿はなかつた。 最近始めたサービスなのかアドリブなのか分からないが、わざわざ起こされた上に「今日のあなたはアンラッキー」と言われたような気になる。そして、次回はぜひ、と勧められても、天気の保証もない。

せっかくのサービスにケチをつけてはいけないが、タイミングとは実に難しいものだ。このケースは、臨機応変に富士山が見える日だけにしてはどうか。全景が拝めれば「よくぞ教えてくれた。気が利いているな」となるだろう。外国人観光客のために英語のアナウンスもつけてはどうか。彼らは非常に楽しみにしているが、のぞみではタイミングを計るのは難しいだろう。

機内アナウンスで感心したこともある。機長のアドリブだったが、「現在の飛行高度は三万五千フィート。ええ、ちょうど、富士山三個分となりますでしょうか」。なるほど、分かりやすくてタイムリー。高所恐怖症の私には実感が湧き過ぎて困ったが。

このように一歩外に出ると、アナウンスの参考になる事例であふれている。私自身、その内容やタイミングを日々勉強中である。

(本場 弘子=キャスター、千葉大学教育学部特命教授)


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