Hug はぐ 育む
構内BGMでリラックス

朝日新聞 2010年7月22日(夕刊)


 夕日が差し込む午後の教室。5時限目終了のチャイムが鳴ると、アコースティックギターが奏でる心地よいメロディーが廊下に流れ始めた。
 東京都町田市立成瀬台中学校(生徒数448人)。昨年7月から休み時間などの間、校内に通信放送会社「USEN」(東京都港区)の音楽を放送している。音楽で学校に落ち着いた雰囲気を演出し、子どものストレスを少しでも減らそうという試みだ。
 登校時はクラシックや鳥のさえずり。授業と授業の合間はイージーリスニング。昼休みにはJポップが流れたりもする。生徒の評判は上々だ。3年の岸田将人君( 14)は「できれば洋楽も聴きたいけど、無理かな……」と笑った。
 川尻佳合(けいごう)校長は「以前より生徒がゆったりした気持ちで過ごせていると思う」と話す。授業2分前に音楽が止まるのが合図になり、以前よりスムーズに授業が始められるようになったという。
 学校内で放送する音楽については、国レベルの基準や決まりはない。音楽で不登校や校内暴力などの解決に一役買いたいと、USENは2007年から学校での放送を始めた。クラシックや行進曲、ポップスのほか、浜辺の波といった「癒やし系」の音など、選択できるのは約500チャンネルと幅広い。
 同社によると、現在、主に関西を中心に48の中学校、27の高校、3小学校で導入されている。各校からは「雰囲気が明るくなった」「走り回る生徒が減った」といった声が寄せられているという。
 問題はコストだ。機材の貸与などで初期費用6万3千円がかかり、その後も月額6300円の利用料がかかる。同社によると、同規模の施設より低価格に抑えているが、予算が限られている学校側は出費に二の足を踏みがち。「子どもの学習環境のため」と親たちがPTA会費で支出しているケースが多い。
 成瀬台中で放送を担当している奏暢宏(のぶひろ)教諭は「街中にBGMが流れるのに慣れている今の子どもにとって、学校でも音楽があったほうがストレスが和らぐ」と考える。いずれは生徒たちの放送委員会の活動に採り入れたいという。「知らない曲に触れて、聴く人にとってどんな曲がいいかを考えてもらいたい」
(根岸拓朗)


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