私設 論説室から
ブブゼラが教えてくれる
東京新聞 2010年6月21日
慣れとはおそろしいもので、だんだん平気になってきた。というより、もうあきらめたのだろう。しまいには、これがないと寂しくなるのかもしれない。
とはいえ、やっぱリブブゼラはうるさい。サッカー・ワールドカップで絶え間なく鳴り響いている、あの南アフリカのチアホーンである。テレビでさえあれほど気になるのだから、現場では想像を絶する大音響に違いない。
「集中できない」と各国の選手にも不評だが、国際サッカー連盟は、南アの文化だとして容認している。あきらめてつき合うしかない。ただ、あれでは肝心のゲームそのものを心ゆくまで楽しめないと思う。
スポーツは勝敗や個々のプレーだけで成り立っているわけではない。五感のすべてで楽しむものだ。競技場に満ちているさまざまな音も重要な要素のひとつなのである。なのに、あのありさまでは何ひとつ聞こえない。つまり、あれは「ブブゼラ付きサッカー」ともいうべきもので、本来のサッカーとはいえない。
日本でもスポーツの場によけいな音が多すぎる。プロ野球やJリーグでもそうだ。自然にわきあがる歓声や歌なら盛り上がるが、決まり切った応援が延々と繰り返されては、かえってゲームの味わいをそこなう。そんなことを考え直すきっかけとなるのなら、このブブゼラ旋風もなかなかの意味があったというものだ。(佐藤次郎)
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