静かな街を考える会の現状と目的

まえがき

この原稿は、2010年に「静かな街を考える会」の会員になったばかりのH・Kが、代表であるC.J.ディーガンさんに、会の現状や目的などについて質問したインタビューです。最初に少し長くなりますが、今回、なぜこのような企画を実施することになったのかについてご説明します(お急ぎの方は読み飛ばしてください)。

私も他の会員と同様に拡声器の騒音が大嫌いで、特に自宅に押し寄せる廃品回収や移動販売といった業者の騒音には、長年悩まされてきました。数年前、何か解決策はないものかと思いながらインターネットで情報を探していて、「静かな街を考える会」のホームページを見たこともあります。

しかし、そのときは「会員になってみよう」「機関誌の『AMENITY』を読んでみよう」とは思いませんでした。なぜかと言うと、ホームページに掲載されている会の趣旨や活動内容の紹介は限定的なため、この会がどんな組織でどんな活動をしているのか、具体的なイメージがつかめなかったからです。

その後、私の家の周りの拡声器騒音はうるさくなる一方でした。駅や店舗、町中などあらゆる場所の騒音も異様だとしか思えないし、「こんなに、どこにいてもうるさい、うるさいと思っているのは、日本中に自分一人しかいないのだろうか」という悩みがふくれあがるばかりでした。

この騒音地獄から逃れるため、どんなに小さなことでもいいからきっかけやヒントが欲しい。そんな思いから、2010年にあらためて「静かな街を考える会」のホームページを探し出して会員になったわけです。

私と同じようにインターネットなどで会の存在を知ったとしても、会員になろうかどうしようか考えあぐねている人がいるのではないか。そういった人たちのために、もっと会の内容についてわかりやすく伝える文章があったほうがいいのではないか。そのような思いからディーガンさんに企画の趣旨を伝えたところ、快く応じていただくことができました。それがこの原稿です。

会員資格や「AMENITY」の送付について

H・K 最初に、「静かな街を考える会」の会員数を教えていただけますか。

ディーガン 現在は約50名ですね。関東(東北在住の会員も含める)に約35名、関西に約10名、九州に3名です。以前は北海道にも会員がいたのですが、現在はおりません。会員数は最も多い時期で約70名でしたから、残念ながら会員の高齢化もあり減ってきているのが現状です(会は「拡声器騒音を考える会」の名称で、1984年に設立された)。

H・K 会員の年齢層は、どのようになっていますか?

ディーガン 30歳前後から80代まで幅広いですね。最も多いのは50代と60代という印象です。

H・K 会員資格についてお聞きします。年に1回(近年は秋頃に)発行している機関誌「AMENITY」がありますが、これを購読することが、会員資格を得るのと同じ意味だと思ってよいのでしょうか。

ディーガン そう考えてもらってけっこうです。「AMENITY」の購読を申し込んでいただくと、私がその方を「購読者名簿」に加え、それがそのまま「会員名簿」になるわけです。会では、「AMENITY」を年に1回発行するごとに、最低千円の「賛同金」をいただくことにしており、その金額を払っていただけた方を「賛同者」と呼んでいます。ですから意味合いとしては、「賛同者」=「会員」ということになっています。

H・K 賛同金の千円は、何に使っているのでしょうか。また、「AMENITY」は1冊につき千円を支払えばいいのでしょうか。

ディーガン 賛同金は「AMENITY」の編集・印刷費用のみに使っています。支払いは「AMENITY」1冊ごとではなく、発行1回ごとですから、例えば今年発行の「AMENITY」を3冊欲しいとか、バックナンバーを5冊送ってほしいといったときには、追加の賛同金はなし(場合によっては送料のみ負担)でお送りします。「AMENITY」は会員が自分で読むだけでなく、周囲の騒音に無関心な人や、役所、企業などにどんどん配ってほしいという気持ちで作っていますので、追加分は無料で送付しています(会の会計報告は毎号の「AMENITY」に掲載)。

H・K 「AMENITY」を購読したのに賛同金を納付しなかった場合は、どうなるのでしょうか。

ディーガン ケースバイケースですが、会の活動に興味があるのかどうか、ある程度はっきりさせる必要がありますから、メールやFAX、手紙などで督促する場合もありますね。それでも支払っていただけなかったら、1年か2年くらい様子を見て送付をストップすることもあります。

H・K その時点で「賛同者」つまり「会員」ではなくなるわけですね。逆に言うと、一度「AMENITY」を購読して賛同金を納付すると、その翌年は特に連絡しなくても「AMENITY」が送られてくるのでしょうか。

ディーガン 「もう不要だ」という返事をいただいたり、こちらから連絡がとれなくなったりしない限りはお送りします。

H・K 最初に会員数についてお聞きしたときに「約50名」という言い方がありましたが、この「約」というのは、そうした連絡がとれなかったり、賛同金を納付しなかったりといった、ちょっとあやふやな会員も含めると、そういう表現になるということですね。

ディーガン そうですね。

H・K 「AMENITY」は、会員であれば誰でも原稿を書けるのでしょうか。

ディーガン もちろんです。書きたいことがあれば、どんどん申し出てほしいですね。

H・K 私は会のホームページを見つけて会員になったのですが、近年、この会に参加することになった会員のきっかけには、どのようなものが多いのでしょうか。

ディーガン さまざまですね。ホームページを見て会員になった方は5,6人くらいいます。会員である中島義道さんの著書「うるさい日本の私」には会の連絡先が書いてあるようなので、それを見て電話をかけてこられた方もいます。ほかには、新聞の投書欄で騒音のことについて書いている人を見つけたり、ブログで防災無線の騒音について書いている人を見つけたりして、私からコンタクトをとって会員になってもらった方も3,4人くらいいます。

H・K 会員の職業や悩んでいる騒音の種類などについて、特に目立つ傾向はありますか。

ディーガン 職業は幅広いですが、あえて言えば教育や音楽に携わっている方や、自宅で原稿を書くような仕事をしている方が多いかもしれませんね。大学教授や音楽家、文筆業といった方たちです。騒音の種類については、特に目立つ傾向というのはなくさまざまですね。

会の具体的な活動内容は?

H・K 「静かな街を考える会」の「私たちの主張」には、「私たちは生活環境をより快適にするために、公共空間における拡声器音を減らそうという運動を始めました。」と書いてありますね。そのために、会が具体的にどのような活動をしているのかについてお聞きしていきます。会全体での活動は、ホームページがあること、機関誌「AMENITY」を年に1度発行していること、そして私も1度出席しましたが、定期的にミーティングを開いていること。この3つになるのかと思いますが、そのような理解でよいのでしょうか。

ディーガン そうなりますね。ミーティングは基本的に毎年1回、「AMENITY」を発行した後に東京都内で開いています。年に2回くらい開くこともありますが、会員のスケジュールが合うかどうかはさまざまですから、集まりが悪ければ中止することもあります。開催する場所もそのときどきで変わります。

>H・K 2010年11月に開催したミーティングは、東京の芦花公園で開かれて、集まったのは10名くらいでしたね。2011年6月にも、後楽園でミーティングをするというお知らせがありましたが、これは結局中止になりました。

ディーガン そのときは、都合がつく会員が3,4人しかいなかったので、残念ですが中止にしました。

H・K 東京以外でもミーティングを開くことはあるのでしょうか。

ディーガン 以前は、関西地区や九州地区で独自にミーティングを開いていたこともありますが、現在ではおこなわれていませんね。会員数が少ないし、住んでいる場所も広範囲で難しいのだと思いますが、もっと独自のミーティングや活動をしてほしいというのが私の願いです。

H・K 特定の騒音に対処するため、会員がそろって活動するというようなことはないのでしょうか。

ディーガン 残念ながら、あまりないですね。やはり、住んでいる地域がバラバラで、悩んでいる騒音もさまざまですから、会員が1つの目的のためにそろって行動するというのは難しいんです。それでも、例えば2011年には、鹿児島県に住む会員から「うちの市に防災無線を設置する計画ができた。なんとか防ぎたいので、会で協力してもらえないか」という相談がありました。このときは、ほかの会員にも連絡をして、全部で7人からその市に反対の意見を送ってもらうことができました。結果がどうなるのかは、まだわかりませんが。

H・K そういう相談があれば、ディーガンさんにメールを出したり、ホームページの掲示板に書き込んだりすればいいのですね。

ディーガン そうですね。会としてできることには限界があり、人を集めて何かをするようなことは難しいですが、それほどでもないことであれば、できるかもしれません。

H・K 例えば、「○○川の自然を守る会」といったような、特定の地域に関する市民運動であれば動きやすいのでしょうが、「静かな街を考える会」の場合は会員の住む地域もバラバラ、騒音の種類も発生源もバラバラですから、統一した運動をするというのは本当に難しいですよね。

ディーガン 難しいですね。ですから、この会に入ったからといって、すぐに身の回りの騒音問題を解決できるとか、日本が一気に静かな国になるというような考えは持たないでほしいんです。会は会員を直接助けることはできません。人助けのための会だと期待して参加すると、がっかりしてしまうと思います。

H・K それでは、ずばりお聞きしますが、「静かな街を考える会」に入る具体的なメリットはなんでしょうか。

ディーガン 「AMENITY」を読んだりミーティングに参加したりして、「拡声器の騒音に悩んでいるのは自分だけじゃない」と思えれば少しは気が晴れますよね。会の活動としては、それだけでも十分意義のあることだと思っています。私はオーストラリアから日本に来て40年以上たつのですが、選挙カーの騒音に悩んだことがきっかけで、1989年にこの会に参加しました。それまでは長い間、「私の耳は日本人の耳と違うのだろうか」と悩んでいて、「日本は好きだけど、この騒音にはもう我慢できない。ニュージーランドに移住しよう」というところまで追い込まれていました。でも、この会の存在を知って勇気づけられ、日本に永住することができたんです。

H・K 私も同じですが、騒音が嫌いな人というのは騒音そのものについて苦しむだけじゃなく、「拡声器の音がこんなに迷惑だと思っているのは、自分だけなのか」ということでも悩んでしまうんですよね。でも、ディーガンさんが言うように、「AMENITY」を読んだりミーティングに参加したりするだけで多少は気が晴れるというのは、私もそうですからよくわかります。

ディーガン 防災無線の音に苦しんでいたご夫婦が「AMENITY」を読んで、「悩んでいるのは私たちだけじゃないんだ」とわかり、それだけで救われたとおっしゃったことがあります。最近は、偶然にも私と同じ地区に住んでいる方から会のことを知ったという電話があり、お互い防災無線が嫌いなので、2人で市役所まで抗議に行きました。会員が増えれば、もっとそういうことが起こるかもしれません。

H・K 役所や企業へ抗議に行くときに、「AMENITY」を渡したり、「静かな街を考える会」の名前を出したりするのはかまわないんでしょうか。

ディーガン どんどんやってほしいですね。会の目的で一番大きいのは、「騒音に無神経な人たちに、音の害を気づいてもらう」ことだからです。そのために「AMENITY」やホームページで情報を発信する「ゆるやかな組織」であるというのが、昔から「静かな街を考える会」の変わらない考え方なんです。

H・K そうして、いつの日か静かな町が実現できると、本当にいいですね。本日はありがとうございました。

(2011年7月31日収録)

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